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2008年 03月 30日

<Vol.554> 季節の針は気まぐれ

今日のBGM : The Orb / Gee Strings
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海岸沿いに立ち並ぶ風力発電の風車は、海に向かっていつも以上に速いスピードで回転し続けている。
早朝の利別の海岸、少し季節の針が逆戻りしたかなような冷たい春の北風は、予想通りのうねりと高波を呼び起こし、僕と海のサクラマスとの一年越しの再会を、また少し先延ばしにさせたのだった。
海岸沿いに広がる白波を見ながら、去年の今頃あともう少しというところで離れて行ってしまった彼女のことを思い出す。
ロッドを通じて感じる海育ちの彼女のみなぎる強靭なパワーと海面下でまるで金属製の何かのようにギラギラと瞬くグラマラスな銀鱗のボディ。
海を見ながらフーッとひとつ大きな溜息が僕の口からこぼれた。
まだまだ出会えるチャンスはあるさと自分にそっと言い聞かせる。



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先週と何ら変化のない道南の本流がそこには佇んでいた。
いや、きっと何かしらの変化はあるのだろう。
だって、少しは濁りが収まっていたように感じられたし、土手沿いに顔をのぞかせた黄緑色のフキノトウは、先週よりも少しばかし大きく膨らんでいたように思えたから。
相変わらず正面からの冷たい強い風は、本流に立ちこんだ僕のType6のティップを繋げたスペイラインでのスペイキャストを容易なものにさせてくれない。
3月の冷たい北風だって時には呼吸をする。
そんな合い間には本流の流れの奏でる水音に混じって、遠くからひばり達のさえずりが僕の耳にも届いたのだった。


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                  original photo by Mr.SHU


それにしてもあれは幻影だったのだろうか。
正面、いや少し下流からの強い風は本流にたくさんの引き波を作り出しているのだけれども、本流に立ちこむ僕からさらに20mほど下流の辺りで少し水面が不自然に盛り上がったような気がした。
もしかしたらアメマスのボイルだろうか。
そういえば、さっきさほど数は多くないけれど岸際で海に下ろうとする鮭稚魚の群れを見たばかりだから。


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                   original photo by Mr.SHU


「ゴン」
「バシャ、バシャ、バシャ・・・・」
スイングを終えたビーズヘッド仕様のオリーブカラーのウーリーを数回リトリーブしたあたりで、ランニングラインを摘む指先にまるで根掛りのような鈍重な衝撃を感じる。
「エッ、まさか・・・」と僕が思う前にその鱒はその場で大きく何度か頭を振ったあと、まるで釣り人の姿というか気配に驚いた水鳥が慌てて羽ばたきながら飛び去っていくかのように、水面に水飛沫を立てながら下流へと暴走し始めた。
力強い無駄なものを一切削ぎ落としたかのようなアメマスの秘めたるパワーは僕のMKS 14' #7/8に何度も何度も理想的な曲線を描かせる。
マーキスの悲鳴と共に、僕はなかなか彼を引き寄せる事が出来なかった。
僕にとっては長い長い時間が流れた。もちろんそんな僕には本流の奏でる水音も冷たい春の風音も、おまけにひばりの囀りさえも耳には届かない。


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                  original photo by.Mr.SHU


周りのサウンドが息を吹き返し、長い僕とアメマスとのやり取りにやっとピリオドが打てたのは、僕が差し出すヨレヨレのインスタネットにアメマスがおさまった瞬間だったのかもしれない。
60cmの僕にとってはグッドサイズの美しい野性味溢れるアメマスだった。
いつも以上に僕の息遣いが荒くなっていて、心臓が高鳴っている事に改めて気付く。
嬉しい出会いだった。


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                  original photo by Mr.SHU

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アメマスの口先からチョコンと乗った小さなフライを外し、春の本流の流れへと戻す。
フリーズ地のグローブが濡れる事なんて気にならなかった。冷たさがジワーっと伝わってくる。
鱒は堂々とした威厳と風格を保ちながら、ゆっくりと流れの中にその姿を消していった。

そのあとも時折り僕らがハッと息を飲むような大きなアメマスのボイルを目にするのだけれども、残念ながら僕らにはどうする事も出来なかった。
そして午後にかけて幾つかのポイントを巡り、この道南の本流つまり後志利別川の懐の深さみたいなものをほんの少しだけれども感じられたような気がしたのだった。

きっといつかまたこの本流を訪れる時には、もう少し季節の針が先へと進んでいるような気がした。


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by d-yun5-fly-elise | 2008-03-30 14:57 | spey fishing | Comments(22)
Commented by こるとれーんtone at 2008-03-30 16:22 x
yunさん、こんにちは、BGMのorbを聞きながら、読み進んでいくと
美しいアメマス!利別の重量size久し振りに見せて貰いました。
例年、ひと月後の融雪後に行っていましたが 季節変わりが、少しずつ
ずれてきているんですね。それにしてもいい顔をした春の鱒ですね^^。
  

Commented by hisuycast at 2008-03-30 17:12
 
  
 こんにちは。
 一時、北海道も随分暖かくなったらしいですが、また少し寒そうですね。
 そちらには○別川というのも多く、僕何んぞには何処の川だか全然判りませんが、どれもいい川ですね。
 因み、有名な千歳川は、実は支笏湖から流れ出ている川だと、つい最近知りました。(笑)
 
 そこで、またちょッと教えて下さい。(笑)
 鮭稚魚、この大きさは、どの位ですか。
 また、特徴というか、識別箇所があったら教えて下さい。
 ピカピカ光るというよりは結構地味な色合いですかねぇ??。
 
Commented by 110-ken at 2008-03-30 17:27 x
Yunさん,こんにちわ

つい一月前にはこの時間の挨拶は「こんばんわ」だった気がします。
今年は駆け足で春になっていきますね(^。^)

さて,グッドサイズのアメマスですね。後志利別川のアメマスを一度は釣ってみてみたいのですが,どうやら後数年は無理なようです。
お話していた通り,どうやら来月からはこれまでのように釣りに行くことができなくなりそうです。いけない時はYunさんをはじめ皆さんのブログを拝見してバーチャルで楽しみたいと思います。
Commented by d-yun5-fly-elise at 2008-03-30 20:54
こるとさん、こんばんは。
早朝はあまり釣りとしては芳しくない状況だったのですが、雲の切れ間から太陽が顔をのぞかせると鮭稚魚の群れが少しずつ下り始めたようで、僅かな時間でしたが「ゴボッ、ゴボッ」というアメマスのドキドキするようなボイルを岸際で何度か目にしました。
そんな中で野性味溢れるアメマスに出会えたのは本当にラッキーだったと思っています。それまでは何のアタリすらありませんでしたからね(笑)。
The OrbのDJ アレックスは何度か札幌のクラブにも招かれているようです。残念ながら私はお会いした事がありませんが・・・。
仰るように今年は季節の針の進み方がなかなか予想出来ませんね。
札幌へ戻る途中で見た尻別川周辺も随分と雪が少ないように思えました。
Commented by d-yun5-fly-elise at 2008-03-30 21:05
トキさん、こんばんは。
後志利別川というのは札幌から200kmぐらい離れた場所を流れる日本海に注ぐ本流です。島牧から距離にして50kmぐらいでしょうか。
ここ数年、この時期には何度か訪れています。
支笏湖と千歳川の繋がり、確かに北海道に住んでいないと分かりにくいかもしれませんね。そんな私も屈斜路湖に通い始めるまで、釧路川が屈斜路湖から流れ出ている川だとは知りませんでしたよ(笑)。
鮭稚魚ですか。これは放流された鮭稚魚とそうでないものとがいるので何ともいえませんが、私が見たのは全長5cm程度の稚魚でした。
上から見るとオリーブ・ブラウン、横から見るとちゃんとパーマークが綺麗に並んでいます。
Commented by d-yun5-fly-elise at 2008-03-30 21:11
110-kenさん、こんばんは。
仰るように少しずつ日照時間が長くなってきていますね。
旭川も少しずつ暖かくなり始めましたか?
後志利別川、今年こそは是非御一緒にと思っていたのですが、やはり4月からお仕事が忙しくなられますか。私も4月から職場が変わるので、少し身の周りが慌しくなりそうです。
でも、そんなことを仰いながらもGWの屈斜路湖辺りではしっかりとお会いしているかもしれませんね(笑)。
Commented by Hige at 2008-03-30 21:14 x
Yunさん、こんばんは
ようやくさけ稚魚も目立つようになってきたようで、少し安心しました(笑)
今年はこのまま終了してしまうのじゃないかなぁ~、なんて思っていましたからね。

強さがにじみ出た、良い顔のアメマスですね。僕が一人だったら大笑いしてしまいます。

来週行ってみます。
Commented by d-yun5-fly-elise at 2008-03-30 21:37
Higeさん、こんばんは。
まだまだ少ない数ですが、鮭稚魚の群れも少しずつ海へ下り始めているようです。久しぶりに間近で見るアメマスの押さえ込むような重量感のあるボイル、ついドキドキしてしまいました。
これからがデリケートで難しい釣りの本番なのかもしれませんね。
でも、そんな中で釣りをしているとあっという間に時間がたってしまいます。
Higeさんが以前仰っていたように後志利別川のアメマスは本当に力強いですよね。土曜日の出会いはそんなことを再認識させてくれました。

来週行かれますか。私もチャンスがあればあと数回は足を運んでみたいと思っています。でも、尻別川も悪くないという話ですから、ちょっと迷ってしまいます(笑)。
Commented by ムラ at 2008-03-30 21:57 x
後志利別川のアメマスに会えたんですね。
「いいな~」と、なんともむき出しなコメントしかできません。
昨年そこでYunさん方とお会いした時もゴボッ、ゴボッといってましたっけ。とにかく心臓に悪い、悩ましい音です(笑)。
私もこの春環境が変わることになりまして、なんともバタバタ気ぜわしい毎日を過ごしていますが・・・この川に立ちたい気持ちがふつふつとわいてきました(笑)。


Commented by d-yun5-fly-elise at 2008-03-30 22:11
ムラさん、こんばんは。
昨年の今頃ムラさんにお会いした時程のボイルの数ではありませんが、ほんの僅かな時間だけドキッとするような心臓に悪い音が本流に響いておりました。
沈めてもダメ、フローティングラインで鮭稚魚フライをドリフトさせてもダメ、いやいや本当にデリケートで難しい釣りですね。
午後からは上流のポイントを彷徨ったのですが、そんな中で本流に架かる橋のたもとで出会った地元のFFMからは四季折々のこの本流の魅力をたっぷりと聞かせていただきました。
ムラさんも春から環境が変わるのですか。お互いに、ちょっと馴染むまでは慌しくなりそうですね。
Commented by akiranspey at 2008-03-30 23:06
YUNさん、こんばんは。
素晴らしい体高の雨鱒ですね!
後志利別川はたしか一昨年この時期に行ったことがあります。
記憶では厳しい釣りだったような・・・
次回は海サクラでしょうか?期待しています。
僕の川サクラはいまだに出逢えませんが・・・(泣)
Commented by shucraft at 2008-03-30 23:07
Yunさんこんばんは!
土曜日はお疲れ様でした。いつもより少ない時間でしたが、今日は疲れでゴロゴロでした(笑)それにしても、良いサイズ、しかも良いプロポーションでした。あの川で1尾釣りたいなー。
PS:画像使って頂き有難う御座います。
Commented by d-yun5-fly-elise at 2008-03-30 23:26
akiranさん、こんばんは。
プロポーションの良い美しいアメマスでした。おまけにかなりの疾走力の持ち主でもあります。
去年は残念ながらスレ掛りだったのですが、今年はちゃんとフライをテイクしてくれました。驚きと共にかなり嬉しかったです。
確かにこの本流はタイミングが難しそうですよ。
それに海のサクラマス、こちらはさらにタイミングが難しいようで、今年は出会えるかどうか・・・笑。
そちらのサクラマスもかなり出会うのが難しそうですね。でも、きっと本流の畔に佇んでいるだけで気持ちが良いのでしょうね。
Commented by d-yun5-fly-elise at 2008-03-30 23:32
SHUさん、こんばんは。
土曜日はお疲れ様でした。
写真、たくさん送っていただきありがとうございます。
個人的にはアメマスを大事そうに抱えている写真が気に入っております(笑)。
また御一緒出来ると良いですね。でも、出来ればもう少し暖かい日が希望です(笑)。
Commented by としー at 2008-03-31 19:17 x
Yunさん、こんばんは。
後志利別川に行ってきたのですね。
先週の土曜日でしたか?
そうだとしたら、この日僕も行って来ましたよ。
と言っても午前だけですがね。
良いアメマスを釣ってこられて、さすがです。
僕はライズを見ることもなければ、全然反応がなかったです。
でももう一回くらい行きたいなァと思ってたところでしたー。。
Commented by abu-z4 at 2008-03-31 20:03
Yunさん、こんばんは。
おめでとうございます!
それにしても丸々と太った大きなアメマスですね。
さぞかし凄いパワーだったのでしょうね。
あそこのアメマスは、ボイルしていてもなかなかバイトしてくれないですから、そんな中での1匹は、本当にお見事です。
文面からも、興奮と緊張と喜びと安堵がよく伝わってきます。
Commented by エゾかず at 2008-03-31 21:00 x
Yunさん、こんばんは。
久しくご無沙汰しております。

グットサイズのアメマスですね。
シングルハンドが好きな私ではありますが、雪代の時期になるとダブルハンドロッドで優雅にラインを操るスペイキャストに魅力を感じるこの頃です。
Commented by d-yun5-fly-elise at 2008-03-31 23:35
としーさん、こんばんは。
土曜日はSHUさんと後志利別川でした。
ということはとしーさんとはニアミスでしたね(笑)。久しぶりにお会いしたかったのですが・・・。
短い時間でしたが、思わず息を飲むようなアメマスのボイルを何度か目にする事が出来ましたよ。ボイルを見ただけでも十分ハラハラ・ドキドキしましたが、そんな中でアメマスに出会えただけでもラッキーだったような気がします。それにしても本当にデリケートな釣りですよね。
これから鮭稚魚が本格的に海に下り始めると、釣り人ならもっとワクワクするような光景を眼にすると思うのですが・・・笑。
私もあと何回かチャンスがあれば足を運んでみようと思っています。
Commented by d-yun5-fly-elise at 2008-03-31 23:40
ABUさん、こんばんは。
ありがとうございます。確かにこの本流のアメマスのパワーは予想以上に強かったです。なかなか近寄らせる事が出来なくて、暫らくの間ヒヤヒヤしながら(いや、ニヤニヤしながら)アメマスとやり取りしていました。
でも、風が強くて本当にキャストし辛かったです。おまけにグローブが必要なぐらい寒かったものですから、この次は少し春らしい天候を期待したりしています。
今週末は天候に恵まれると良いですね。
Commented by d-yun5-fly-elise at 2008-03-31 23:51
エゾかずさん、こんばんは。
こちらこそ、久しく御無沙汰しておりました。
土曜日は突然お電話して申し訳ありませんでした。おかげさまで、私の知らないポイントを幾つか知ることが出来ました。それにしても教えて頂いた橋下のポイントでお会いした地元のFFMはこの本流の四季折々の魅力を熱く語っておられたのが印象的でした。本当に魅力的な本流ですね。ちなみに教えて頂いたポイントでは小さなバイトはあるのですが、結局キャッチまでにはいたりませんでした。
スペイキャスト、なかなか面白いですよ。ついつい必要がなくてもこのキャストで楽しんでしまいます。スペイキャストは必ずしもダブルハンドでないといけないわけではないので、シングルハンドでスペイキャストを楽しむのも面白いかもしれませんよ。でも、エゾかずさんのロッドビルディングのテクニックなら(以前ブログで拝見した時、本当に上手いなぁと思いました)、いっそのことダブルハンドをブランクから御自身で組んでみるというのも面白いかもしれませんね。
Commented by bigrose1961 at 2008-04-03 11:54 x
Yunさん、はじめておじゃまします。
すごいアメマスですね!いいなぁ〜北海道...。
こんな魚に会えるってすばらしいですよ。
それとここのブログは写真がいいですね〜。かっこいい加工とかして、もしかしてプロですか?ただものではないセンスが光りますね。
Commented by d-yun5-fly-elise at 2008-04-03 23:40
bigrose1961さん、こんばんは。
こちらでは、はじめましてになりますね。先日はリールの件で、大変お世話になりました。
グッドサイズのアメマスとの出会い、久しぶりにハラハラ、ドキドキしました。状況としては予想に反して芳しくなかったのですが、そんな中でこの鱒に出会えたのはラッキーだったのかもしれません。
こんな鱒達にいつか子供達が大きく育った時にも出会えるように、私達釣り人はフィールドを守っていかないといけないのかもしれませんね。
お褒めの言葉、ありがとうございます。
でも、もちろんプロではありませんし、ただ単に写真(特に加工すること)が好きなひとりの釣り好きなだけですよ(笑)。
今後とも、宜しくお願いいたします。


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