人気ブログランキング | 話題のタグを見る
2008年 02月 05日

<Vol.542> 冬の潮風

<Vol.542> 冬の潮風_d0029241_16131637.jpg



冷たいカサカサに乾ききった冬の潮風が僕の頬を何度も何度も撫でていった。
不思議と潮の香りは感じられない。
本当に不思議なことなのだけれど。

時計の短針があと二つだけ先に進めば正午のサイレンが海岸に鳴り響く時間に僕らは島牧の海岸に辿り着いた。
降り積もった雪が踏み固められたた海岸へと下りるためのコンクリート製の階段を転ばないようにロッドを片手に下りると、そこからはこの地を訪れた釣り人達の印した無数の足跡が砂地や雪の上をいたるところの方向へと放射状に伸びている。
その先に広がる冬の島牧の海。
それは思った以上に穏やかな表情を呈していたように僕には思えた。

相変わらずツーハンドロッドでのオーバーヘッドキャストは苦手というか、思ったようにことが運ばない。
「飛ばそう、飛ばそう」という強引で欲張りな意識と、バックキャストの際にティペットの先に結んだオレンジ色のスカッドを傾斜した地面に叩きつけて壊したくないという潜在意識とが、僕のキャスティングのリズムを少しずつ狂わせていたように思う。
アメマスはきっと冷たい海の波打ち際にも力強く泳いでいるのだろう。だから無理をした遠投そのものも、鱒に出会うという目的にとっては、もしかしたらあまり意味のないことなのかもしれない。でも単純な思考回路の持ち主である僕にとっては、この問題、つまり何かをセーブしたりコントロールするという事はかなり乗り越えるのが困難な関門であったりする訳だ。
そんな訳で、この日の僕はいつものように島牧の海岸で冬の潮風に吹かれながら何度途方に暮れた溜息を吐いた事だろうか。


<Vol.542> 冬の潮風_d0029241_17141642.jpg



この日の早朝は、島牧の海岸よりもさらに南下した小さな漁港でロッドを振っていた。
船着場の斜路の上には幾つも小さな漁船が引き上げられて、その上には物寂しげにたくさんの白い雪が降り積もっている。
冬の空は美しい鮮明なブルーというよりも、どこか果敢なくて淡い無気力なブルーの色を呈していたように思う。
冬らしい空の色だった。

漁港の中にはアメマスが幾らかは泳いでいたのだろう。時折り僕のペリーポークでは到底届かない場所で何度も無邪気なボイルを繰り返すのだから、きっとそうに違いない。
でも、かなりナーバスになっている鱒達だったように思う。
これから沖合いにサクラマスを釣りに行くという漁師さんが僕に言う。
「これじゃちょっと釣りには厳しいだろうさ」
「やっぱし、もう少し外海が荒れにゃ」って。

それでもしばらくすると、ランニングラインをリトリーブし始めて数回目でゴンと予期せぬ衝撃。
3Xのティペットの先には8番フックに巻いたイワタ・スペシャルの豪華版、まぁ何のことはない安っぽいアイを取り付けて、ウィングにオリ-ブのカシミアゴートをトッピングしただけのチープなフライなんだけれど、それをテイクしてくれたのは力強い40クラスのアメマスだった。
ブラウンがかった背中の色はまだこの鱒が海に下ってそれほど時間が経っておらず、点在する大きな白い斑点はこの鱒の急激な成長とこの海の豊かさを物語っているように僕には思えた。

漁港の中へと戻る鱒を見送り、また僕は冷たくなった指でリールからスペイラインを引き出す。
そんな僕の頬を冷たい冬の潮風がそっと撫でていった。
不思議とこの時の僕は吹きぬける潮風にほんの少しだけれどちょっとした粘度のある潮の香りを感じたんだ。
本当に不思議なことなのだけれども。


<Vol.542> 冬の潮風_d0029241_1823727.jpg


by d-yun5-fly-elise | 2008-02-05 18:06 | spey fishing | Comments(12)
Commented by abu-z4 at 2008-02-05 20:43
Yunさん、こんばんは。
日曜は、お疲れ様でした。
何時ものようにYunさんは釣って、何時ものように僕はボウズ。
でも、何時ものように楽しかったです(笑)
あれでも一生懸命やっているつもりなのですが、なかなかアメマスは見向いてくれません。
甘~いロイヤルミルクティー、冷えた身体を芯から温めてくれて、とても美味しかったです。
ご馳走さまでした。
Commented by d-yun5-fly-elise at 2008-02-05 21:51
ABUさん、こんばんは。
こちらこそ日曜日はお疲れ様でした。
あれだけ漁港の中の潮が澄んでいると、なかなか状況は厳しかったかもしれませんね。私がアメマスに出会えたのは本当にラッキーだったと思います。
ロイヤルミルクティー、気に入っていただけましたか。
たまたま私の連れ合いがどこかのお店で見つけてみたものでしたが、家族内でもなかなか好評だったので、カフェセットの中に忍び込ませておりました。仰るように冷えた身体にとびっきり甘いロイヤルミルクティー、私もついつい束の間の幸せな気分に浸ってしまいました(笑)。
Commented by akiranspey at 2008-02-05 21:53
YUNさん、こんばんは!!
みなさんと素敵な時間が過ごせたようでうらやましい限りです。
厳しい状況の中での雨鱒との出会いはきっと素晴らしい感動があるのでしょうね・・・。
冬の海・・・どことなく物悲しい雰囲気が漂ってきます(笑)
Commented by d-yun5-fly-elise at 2008-02-05 22:04
akiranさん、こんばんは。
最近かなり私の身の周りが慌しくなっている状況なのですが、久しぶりにといっても二週間ぶりになのですが、皆さんとフィールドに行ってきました。ちょっとした気分転換になって楽しかったですよ。
今度akiranさんに出会えるのは、あと1ヶ月ちょっとですね。楽しみにしております。
この日は意外と穏やかな天候だったのですが、やはり写真をモノクロに近く加工すると実際とはまた違った雰囲気になるようです。
フィールドでお会いしたakaさんも仰っていましたが、こういう日はやはり条件としては厳しいそうです。そんな中でアメマスに出会えたのは、ラッキーだったのかもしれませんね。
Commented by こるとれーんtone at 2008-02-05 23:08 x
YUNさん、おばんです。絵のようで異空間のようで 落ち着く画像ですね。 ナーバスなアメマスの相手をする釣りは 門外漢の私には興味深いです。  豊かなウミのアメマスは型がいいですね。私には憧れのウミアメマスです^^。 
Commented by d-yun5-fly-elise at 2008-02-06 20:55
こるとさん、こんばんは。
1枚目の画像(レストハウス前)はPhotoshopの簡易版で加工したものですが、自分でもしっくりくるような雰囲気に仕上がって、なかなか気に入っています。
冬のシーズンにウミアメ釣りに島牧方面に通うようになって、かれこれ数年が経ちますが、相変わらず私にとっては苦手な釣りの一つにあげられます。どういう訳かこの釣りに関しては釣り師としての嗅覚がかなり鈍るようでして・・・笑。でも、フィールドに立って潮風に吹かれたり、波音を聞いているだけでも、十分リフレッシュした気分になれるんですよ。
小さな漁港での釣りは、もちろん状況にもよりますがかなりシビアなコンディションの時が多いようです。例えとしては間違っているかもしれませんが、気難しい管理釣り場の鱒といった感じです。
Commented by B-R-Bros at 2008-02-06 22:55
Yunさん、こんばんは、
島牧の釣、私が暖かい部屋でで想像しているよりはるかに厳しく難しいようですね、いつか行ってみたいと思っています。昨年はヘビーな遠投用のタックルも準備したのですが・・・
風や潮の流れの影響もあるようですが、時期的にはまだこれからですかね。
Commented at 2008-02-07 14:54
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by d-yun5-fly-elise at 2008-02-07 19:55
Ryoさん、こんばんは。
気象条件としては確かに厳しいのですが、時には穏やかなまるでフライ日和と言えそうな日にも巡り合える事もあります。
私は島牧ではあまりヘビーなタックルは使いませんが(風雪が厳しくて波の高い日は諦めるようにしています)、友人の中にはシーズンを通してシングルハンドという友人もいるんですよ。
海アメダービーも始まったばかりのようです。でも、3月末から4月上旬の鮭稚魚の降海時期が、もしかしたら面白いかもしれませんね。
Commented by d-yun5-fly-elise at 2008-02-07 19:56
鍵コメさん、こんばんは。先程DMの方を確認しました。
ありがとうございました。
Commented by tommy at 2008-02-11 14:37 x
yunさん、お久しぶりです。
遅くなりましたが、今年も宜しくお願いします。
しばらくぶりに訪問しましたが、釣りへの情熱は変わらないようですね!
ホント、敬服します。
自分なんか「冬季休釣中」ですよ(笑)
その代わりと言ってはなんですが、また音楽に傾倒しています。

Francois K(フランソワ・ケヴォ-キアン)というアンダーグラウンドの重鎮DJ/プロデューサーのイベント[deep space]@precious hall
に行ってきました。
ハウス・ダブ・ミニマルテクノ・ジャズ・ドラムンベース・エレクトロ・・・全くジャンルレスで、素晴らしいイベントでした。

ところで、2nd communicationの音源はもう手に入らないのでしょう
か?ものすごく興味があります。
Commented by d-yun5-fly-elise at 2008-02-11 22:07
tommyさん、こんばんは。
こちらこそ、お久しぶりです。今年も宜しくお願いいたします。
最近仕事の関係でちょっと私の身の周りが慌しかったので、フィールドに足を運ぶ機会が減っておりましたが、ぼちぼちまた通い始めようと思っております。
そんなイベントに行かれておられましたか。仰るようにきっと刺激的なイベントだったのでしょうね。私もフランソワはなかなか面白いなぁと思っておりました。以前といてもかなり前の話ですが、プレシャスのオーナーのサトル氏からこれ面白いよと初期のCDをもらった事があるんですよ。

2nd Communicationの音源ですか?もう廃盤なので中古かオークションでしか手に入らないと思います。
でも、この前My Spaceの中で検索していたら、初期の曲が1曲だけアップされていました。どなたがアップされたんでしょうかね(笑)。


<< <Vol.543>...      <Vol.541>... >>