久しぶりに出会った支笏湖のブラウン・トラウト。
その身体に散りばめられた朱色に近い赤い斑点が、どこか椿の花のように眩かった。
火曜日の午後の支笏湖。
なぜか僕の足は美笛河口ではなく、半年振りに訪れることになるトンネル下へと向った。
シャーベット状の雪が幾重にも重なり合った、沢伝いの急な斜面を慎重に降りる。
それにしても、危なかった。
沢の上に積もった雪は、その下がすっかり空洞になっていて、ちょっとでも気を緩るめると、
足元からズボッと雪が崩れ落ちてしまう。
僕は何度かロッドが折れるどころではなく、足元の雪が崩れて変な体勢になり、今度こそ自分の足が折れたんじゃないかと思ってしまったぐらいだ。
何とか無事に急な斜面を降りる事ができ、水位がかなり減水した湖岸に佇む。
それにしても、春の支笏湖はめまぐるしく天気が変わる。
身体が揺れるぐらい強風が吹いたかと思えば、風が息をする事をやめたかのようにピタっと止み、雪が降ったかと思えば、柔らかい春の日差しが差し込み、湖水が美しいエメラルドグリーンに染まる。まるで支笏湖のグリーンバックのレインボーの背中のように。
バックスペースのほとんど取れないポイント、
ペリーポークでフライとスカンジナビアンのヘッドを風に乗せて運ぶ。
ティップはType3、3X12feetのリーダーの先にはビーズヘッドのblack/goldのウーリーを結んだ。
不意に何かのリズムを乱すもの。
ランニングラインをかけた右手の人差し指と、リトリーブする左手の指に訪れる、
不意の違和感。
湖水が春の日差しで少し明るく照らされ始めた頃、それが訪れた。
最初湖水の中でギラっと反射する鱒の身体を見てレインボーかと思ったけれど、
心地良いファイトの末に近づいてきたのは、紛れもないブラウン・トラウトだった。
今年僕が最初に出会った支笏湖の鱒はレギュラーサイズのブラウン・トラウト。
その身体に控えめに散りばめられた朱色に近い赤い斑点に、美しいなぁと思いながら、
安堵感にも近いものを感じつつ、そっとまた湖水へとその鱒を戻した。
風は相変わらず強く吹き、湖面をざわつかせていた。