いつの間にか、湖畔には水墨画のような冬景色が広がっている。
カサカサとレインジャケットのフードに当たる乾ききった音がそっと僕の耳にも響く。
モノトーンに染まった支笏湖に、細かい春の雪が降っていた。
キャストしたフライが静かな湖面に着水すると、手元のランニングラインを数回手さぐり、
すべてのものを一直線にする。
そして、「カウントダウン」。
ゆっくりと押し寄せてくる柔らかい波に揺られて、湖水に立ちこんだ僕の身体が前後に振幅するのにシンクロさせて。
目を閉じると、耳元で静かな潮さいの音が聞こえる。
指先がかじかむぐらい寒いのを省けば、夏の穏やかな海の浜辺にでも佇んでいるような音色である。
本当に穏やかだった。
何度かハッとするような鱒のライズも見かけたけれど、結局最後まで支笏湖のドラマが幕を開ける事はなかった。
早春の雪景色の支笏湖。
湖水に佇む
友人の姿。
相変わらず細かい雪が降っていた。