11月の冷たい雨が降っていた。
時にはパラパラと激しく、そして時にはシトシトとそっと優しく。
まるでそれは何かがゆっくりと深い息をしているかのようにさえ思える。
11月の冷たい雨が降っていた。
火曜日の午後の支笏湖での話である。
湖畔で挨拶を交わした釣り人は、ドライフライでブラウンに出会ったという。
そういえば僕も雨が降る湖面に一度だけ小さなティンプル・ライズを見かけたんだ。
本当に小さな何かを吸い込むようなライズだったんだよ。
11月の冷たい雨が降っていた。
濡れたレインジャケットの下に着たフリース越しにも、
その雨の冷たさがジワーッと伝わってくる。
時間が経つにつれ、寒いという感覚を僕は強く意識し始めた。
雨で冷たくなった手で何度もフライを換えたし、何度もスペイキャストを繰り返した。
そして頭にかぶったフードに当たる雨音を聞きながら、ゆっくりとリトリーブ。
結局、最後まで何も起こらなかった。
11月の冷たい雨が降っていた。
そこにはいつもの雨の支笏湖が佇んでいた。
きっと次にここを訪れる時は、辺り一面真っ白な雪景色になっているのかもしれない。
そんな支笏湖の景色も、意外と悪くなかったりする。