今日のBGM : Bass Communion / Litany
天気予報の予想した通り、午後も3時を過ぎると、どんよりとした灰色の空から小さな雨粒がいくつも降りだした。
阿寒湖に降る冷たい雨には、なぜかしら5月の匂いがした。
友人達はロッドをたたみ、すでに車の中で暖をとっている。
やがて風が強まり始め、湖面が波立ち始めた。
僕はもう少しだけ湖面に佇み、スペイロッドでキャストを続けることにする。
阿寒湖に足を運ぶようになって、大島前というポイントでロッドを振るのはおそらく初めてのことになるのだろう。
いかにも好ポイントというべき馬の背にはすでに数人のアングラーの姿。
早朝の風の穏やかさを、阿寒湖の湖面が静かに物語っていた。
馬の背の脇で、僕もロッドを振ってみることにする。
次への期待をこめて、写真は撮らなかった最初のアメマスは50クラスだった。
独特の阿寒湖色に染まったアメマスの躍動感は折り紙つき。
ピックアップ寸前のバイトに、僕は思わずドキりとさせられた。
sink2/sink4のフルシンク・スカンジヘッドではやはり根掛かりによるフライのロストが多い。ビーズヘッド仕様のオリーブカラーのイントルーダーは、2尾目のアメマスに出会ったあと、1.5号フロロのティペットの先から姿を消していた。
午後からは硫黄山川インレットのエリアに移動する。
僕がランドロックのプラチナカラーに輝くチェリーに出会ったのは、湖面に細かな雨が降り出してからのこと。フォレストグリーンのウェーディングジャケットは冷たい雨に濡れて、さらに色濃くなっていた。
帯広から来られていたナカガワさんの言葉で、寒さで折れそうになっていた僕の気持ちが、ほんの少しだけ復活する。
そしてキャスト後10カウント。3回目のリトリーブでズゥン。
ずっしりと重たい負荷がランニングラインをつまんだ指先に伝わった。
慌てて余ったランニングラインをセントアイダンに巻き込む。
バットからグンニャリと曲がる#7番のバーキー。リールからは冷たい雨に混じって逆回転音が幾度もこぼれていった。スリリングなひと時が始まる。でも、こんな時に限って折りたたみ式のランディングネットは車のカーゴルーム。こればかりは悔やんでも仕方がない。少しずつ岸へと後ずさりしながら、やっとのことで鱒を岸際の浅場へと誘導し、グッとグリップに力を入れて鱒を浮かせる。そして水面下に見えたのは太くて分厚い背中と散りばめられた小さな白い斑点。60クラスの僕にとっては阿寒湖でのグッドサイズだった。
そしてフッと何かが弾けるような軽い衝撃がロッドに伝わるのと同時に全てが終わる。宙を舞うオレンジテイル、ビーズヘッド仕様の黒のイントルーダー。大きなアメマスは一瞬戸惑ったような仕草を見せた後、ゆっくりと湖面に消えていった。
阿寒には冷たい雨が降り、湖面が大きく波立っていた。
これでやっと僕もリールにラインを巻き込み、友人達が暖をとりながら待っている車へと戻るふんぎりがついたのだった。
今日のSilent Movie(今日のBGMに合わせてどうぞ)