海の色がそこだけ変わっている。20m先にはカラフトマスの群れがいることは、はっきりとしていた。
いつもは1X12feetのリーダーの先に真赤なゾンカ-タイプのカラフトマス用フライを結ぶのだけれども、その時はなぜか真赤なフライのゲーブに1.5mほどの10lbのフロロティペットを結んで、その先にもう1つ真赤なフライを結んだ。トレーラーの釣り。ある意味、僕にとっては禁じ手。
渚滑川でシンクティップラインでウェットの釣りをした時、ドロッパーとリードの2つのフライに同時にニジマスが掛かってしまい、僕は限りなく嬉しい悲鳴をリールの逆回転音に負けないぐらいに上げた事がある。30cm+30cm=60cmと、単純にいかないのは十分わかっている。でも、もしかしたら、同じ事がカラフトマスでも再び起こるんじゃないかと、僕は密かに期待していたのかもしれない。
1投目。2つの真赤なフライは群れの向こうに着水した。数秒間待ってから、ゆっくりとリトリーブ。2つのフライは何事もなかったように僕の足元に戻ってきた。前を見ると、まだ黒い塊はその場所にとどまっていた。ゆっくりと深呼吸して、2投目。同じ所に2つのフライは着水した。心の中でゆっくりとカウントダウンして、リトリーブを始めた。3回目にラインをリトリーブした時、グゥ~ンとラインに重みを感じた。僕がニヤッと心の中で笑った瞬間、その重みは2倍いや3倍になった。
何が起こったのか分からなかった。ある意味、僕はパニックになっていた。手元にあったラインは一気に出て行き、ソルト用のシャンパンゴールドのリールは、見た事もないぐらいのスピードで逆回転していた。ブレーキなんて効きやしない。おまけに、セミダブル8番のロッドは、これ以上は曲がらないというぐらいひん曲がって、ピキピキとバットから嫌な音を放っていた。前を見ると、海中に突き刺さったラインの先に、偏光グラス越しに2つのギラッとするものが見えた。
僕がどうする事も出来ないファイトはどれぐらい続いただろうか。諦めて、僕がラインを握ろうとした瞬間、ラインを通じて感じる鱒の重みはいつもの重みに変わった。気が付くと、僕の心臓が凄い早さで鼓動を打っていた。
カラフトマスのトレーラー釣り、僕はこの事があってからはやっていない。いつかは鮭釣りの時にもトライしてみたいと思っていたが、それだけは決してやるまいと固く心に誓った。3年前の8月末夕刻、知床モイレウシでの出来事。
今日のBGM:KMFDM/ANGST