職場から支笏湖までの間、車の窓からセミの鳴き声が聞こえる事が途絶える事は、一度もなかった。それは支笏湖の湖畔に立っても、なお続いていた。
トンネル下の湖岸を歩いていると、結構な数のセミが湖面に落ちている。セミ、セミ、セミ。可哀想だからと、セミをロッドに引っ掛けて、岩の上においてみた。ついでに、少し観察させてもらう。フムフム、意外とお腹はオレンジ色が強いんだなどと勉強させてもらった。いつものポイントには、ルアーの方が一人。周りでは、時々アメマスかブラウンがセミを食べていると思われる波紋が見える。こういう天気の良い日で、セミが沢山湖面に浮いている時に、一度も良い思いをした経験がない事が僕の脳裏によぎる。せっかく来たんだからと、ルアーの方の手前でロッドを振った。僕のセミフライを何かが突っつくが、きっと小さなアメマスだろう。このまま粘るかどうか迷ったが、結局いつもの僕の支笏湖回遊ルートを巡る事にした。
次のポイントでも、セミは僕の背後でひっきりなしに鳴いているけれど、湖面に浮かんだ僕のセミフライには何もドラマは起こらない。少し湖岸を歩く。小砂利のポイントで盛んに小さなアメマスがライズしている。セミフライを取り敢えず浮かべて、湖岸の倒木に腰掛けた。小さなアメマスが僕のセミフライを突っつくが、気にしない。煙草に火をつけて、ボーっと佇みながら眺めていると、そのうち手元にあったラインがバシャっという音と共に引き込まれた。アメマスかなと思ったら、バイトの主は案の定ウグイだった。ウグイって、釣人からあまり好かれていないみたいだけれど、よーく見ると何故か憎めない顔をしている。したたかで、たくましく生きているところが僕は嫌いじゃないし、時々寂しい釣師の気持ちを慰めてくれる。そういえば僕が名寄川で最初にアカハラを釣った時、強烈なトルクのある引きに圧倒され、あの派手なオレンジと白のコントラストの婚姻色にとても感激したのを思い出した。
ウグイをリリースした後、久しぶりに、ちょっとドキッとさせられたなぁと思いながら、なぜか不思議と嬉しかった。
それにしても、支笏湖の風が気持ち良かった。
今日のBGM:Saravah for Cafe Apres-midi 2