今日のBGM : Alton Ellis / Rocksteady
まったくもって心地良い秋晴れの一日。
峠へと続く国道沿いのイチョウ並木の街路樹からは鮮やかな山吹色が溢れんばかりにこぼれていた。
こんな日にはご機嫌で軽快なリズムのBGMがピッタリ。
尻別川へ辿り着くまでの間、車の窓をほんの少し開けて、吹き込む風に深まる秋の気配を感じたかった。
ほとんど釣り人の姿を見かけない閑散とした火曜日の尻別川。
蘭越エリアの土手沿いに小さく広がる駐車スペースで、のんびりとお気に入りのスペイロッドをつなぐ。Type6のティペットの先にはかなり使い古して短くなった1Xのリーダーを繋ぎ、リードフライにはほとんど黒づくしといってもいいIntruder、そしてドロッパーには先日尻別川の帰りに立ち寄ったDolly Vardenでデシューツリバーのスチールヘッド・フィッシングから戻った下山さんに見せてもらったローカルフライにインスパイアーされて巻いてみたポーラベアーとエンジェルヘアーをウィングにあしらったウェットフライを結んでみた。
通称「ヤマモトの瀬」で先行者の釣り人にちょっと挨拶をし、ことわりを入れてから滑りやすい川岸をロッドを片手にヨタヨタと下り、もうひとつ下の瀬頭からフライを流させてもらった。
ほんの少し期待を抱きながら、秋晴れの清々しい青空の下、リールから心地良い音色と共にラインを引き出す。
そんな中、いきなり指先で摘んだランニングラインが引き込まれたのは、左手のキャストを開始して2投目だった。
キャストした2つのフライが早瀬の流芯の中をスイングし終えようとした時の不意の出会い。
川面が鱒の躍動感で幾度となく割れる。
黒づくしのリードフライとして結んだIntruderをテイクしたのは、遡上してきたサーモンが産み落としたエッグでも飽食したのか、お腹のあたりがどこかふっくらとした40クラスのアベレージサイズのアメマスだった。
このあと、このエリアを釣り下る中で2度ほどバイトがあるが、もしかしたらバイトの主は秋のアメマスだったのかもしれないなどと思う。
川面の上を赤とんぼのペアが何組も飛び交っていた。
時計の針が正午を過ぎると川面が波立ち、高く伸びたススキの穂が大きく揺らぐぐらいにまで風が強まり始めた。風に吹かれて落ち葉が河畔を舞う。
栄橋の下流のプールで不意にまるで根掛りのような鈍重な衝撃が僕の手にするロッドに訪れ、40クラスのレインボーが逆光の中、1m程尻別川の流れの上を華麗に跳躍した。
久しぶりに出会う尻別川のレインボーとのやり取りにちょっとハラハラしたのだけれど、残念ながら黒のIntruderをテイクしたその魚体にほんの少しも触れることなくランディング直前に、その鱒は元の流れに戻っていってしまった。
きっとフッキングが甘かったのだろう。僕の脳裏にはその鱒の逆光の中でのシルエットだけが残像のようにいつまでも残る。
この日最後に訪れた夕日が傾きかけた栄橋の上流の深瀬で、もう一度リードフライの黒のIntruderに訪れた衝撃の主は、やはり少し幅のある体つきをした40クラスのアベレージサイズのアメマスだった。粘りのある鱒の躍動感に流れの速さが加わり、手にしたロッドが心地良く曲がる。そんな上顎に少し傷のあるこのアメマスは、もしかしたら以前他の釣り人にリリースされたアメマスだったのかもしれない。夕暮れの斜陽の光の中で薄っすらと浮かぶそのタフなアメマスの白い斑点の輪郭が、暗闇の迫る流れの中で柔らかく浮かび上がるのを僕は不思議なぐらいに穏やかな気持ちで眺めていた。