紺碧の支笏湖ブルーに鮮やかなオレンジ色のランニングラインが吸い込まれていく。
あぁ、なんて美しいコントラストなんだろうか。
幾分水位が下がり、歩きやすくなった湖畔をゆっくりとロッドを片手に歩む。
時々何かを見つけては、ふと立ち止まる。
これも春の兆しなのだろうか。湖畔に育つ柳の木の芽が微かに膨らみかけていた。
銀色の真綿のような産毛が見え始めるのは、もうすぐそこ。
河口に着くまでに、レインジャケットの下に着たフリースの背中の辺りからジワーッと汗ばむのを僕は感じる。
これももしかしたら早春の兆しなのかもしれない。
そんな火曜日の午後の支笏湖。
風はこの上なく穏やかだった。
15feetのロッドにType2のシューティング・ヘッド。
それに、1Xのリーダーの先には小さなビーズヘッドを載せたオリーブカラーのウーリー。
こんな小さなフライでも、支笏湖の鱒はちゃんと見つけてくれるのだろうかという一抹の不安を胸に、僕は穏やかの湖面の上でキャストを繰り返す。
やがて南寄りの風が北風へと変わり、季節が早春から冬へと逆戻りした。
次から次へと打ち寄せる波。プラスチック製のラインバスケットに容赦なく当たる波飛沫。
様々な表情を見せる支笏湖に翻弄させながら、とうとう僕にもその瞬間がやってきた。
「グゥゥン」という、ゆっくりとリトリーブするオレンジ色のランニングラインを通じて伝わる押さえ込むような重量感のある鱒のテイク。続けざまに伝わる「グゥン、グゥン」という鱒の躍動感。
久しぶりに胸が高まるのを感じる。
そして、次の瞬間、オレンジ色のランニングラインから伝わるすべてのものを失った。
僕の目には、ロッドティップからスーっと一直線に伸びる鮮やかなオレンジ色のランニングラインが、何事もなかったように紺碧の支笏湖ブルーの湖水に吸い込まれていくのが、まるで何かの名残惜しい残像のように映るのだった。