秋空の広がる祝日の午後、エリーゼの幌を小さなトランクルームに仕舞い込んで、お気に入りのスペイロッドと共に浜益川を目指す。休日のためか道路は混み合っていたけれど、太陽が柔らかく照り付けて穏やかな表情の日本海が僕の視界に飛び込んでくる辺りからは流れがスムーズになってきて、秋の匂いとほのかな潮の香りがする風を心地良く感じていたんだ。
本流の小高い土手沿いの小さな道をスペイロッド片手にゆっくりと歩く。トンボが飛び交い草薮からはコオロギ達の鳴き声、そこには穏やかな空気が流れていた。時折り殆んど流れのないように見える本流ではサーモンの立てる大きな波紋が現れ、黒い尾鰭が見え隠れした。いるいる。
そんな光景が見えてしまうと、どうしても僕の歩くスピードがほんの少しだけ速くなってしまうんだ。自分でも笑っちゃうぐらいにさ。
original photo by Mr.aihara
スペイラインのティップをType3からフローティングに換え、4号のフロロ・ティペットを2mほど繋いだ。その先にはちょっと小さめの真赤なフライ。泥の溜まったぬかるんだ本流に足を取られないように注意しながら少しずつ前に進む。流れは殆んどない。いや、あるんだろうけれど殆んど感じないのだ。本流の真ん中辺りでリールからラインを引き出し、僕はゆっくりと対岸めがけてキャストを始める。
グゥ~ン。グゥ、グゥン、グゥ~ン。やがて、ゆっくりとリトリーブする指に確かな感触。そのあとサーモンの立てる水飛沫と共にリールから何度も何度も奏でられる悲鳴を聞いた。
でもね、なぜか楽しくなかったんだ。気持ちの良い穏やかな秋空の下の午後のはずなのに。
自分の中で、それがどうしてなのかはちょっとは心当たりがあったんだ。でも、そのことについて僕はあまり深く考えたくなかったんだよ。
そんな秋の日の午後だった。