original photo by Mr.SHU
長かった雪代が収まりかけて、薄っすらと濁りが残った重たいトルクフルな流れ。
グッとラインを深く沈める釣り、伸びきったスペイ・ラインが瞬く間に下流に流されていく。
膝上ぐらいまで流れに立ち込んでいても、ちょっとでも気を抜くとズリッと身体が下流へ押し流される。ついついステップ・ダウンも慎重になってしまう。
そんな6月の渚滑川の流れが僕はたまらなく好きなのである。
広い流れが急に狭まり、その太い流れの勢いは車のアクセルを命一杯踏み込んだ時のような力強さを帯び始める。きっとここには力強い鱒が潜んでいるのだろう。そして、一気に100mほどの程良い水深を伴ったストレートな瀬の流れへと続く。対岸は残念な事に何年か前に護岸されてしまって昔の面影は残していないけれど、なぜかいくつもの思い出があるから毎年この場所を訪れてしまう。やがて流れは、グッと左に鋭角的にカーブして視界から消える。まるでトップスピードでホームストレートを駆け抜けた車が第1コーナーをフルブレーキでハンドルを切るかのように。
original photo by Mr.SHU
重いトルクフルな流れに立ち込んでいると、すべての音が川の流れの音にかき消される。ロッドを握った右手の人差し指に掛けたフライラインとロッドの先端に意識の9割を集中させて、残りの1割は流れの中の足の指先へ。時折早い流れの上をイワツバメが縦横無尽に飛び交うと、少しばかり張り詰めた緊張の糸が緩む。そんな時に、ググッと不意に魚信があったりするものだから、あまりにも突然の不意打ちに慌てている自分自身につい笑いがこみ上げてくるのだ。
なぜ僕は6月のこの流れが好きなんだろうかと決して答えのない理由を探してしまう。特に鎮橋から始まるC&Rの下流域とそのさらに下流域が。おそらく僕が川のフライフィッシングを本格的に始めたのが、この渚滑川の下流域からなのが大きな要因の一つなのかもしれないけれど、それ以上にもしかしたら本流の流れの大きさとそこに佇む釣り人のちっぽけな存在との比率が一番僕の中でピッタリくるからなのかもしれない。だから、どうしても他の川を訪れてもこの川と比べてしまうのだ。
こんな事を書きながら、6月中にはもう一度あの流れの畔に佇みたいと思っている僕がいたりする。そして、あのたまらなく好きな流れの中でゆったりとスペイロッドを振りたいのだ。
今日のBGM:Soundtrack/WINGS OF DESIRE(a film by wim wenders)