薄い被膜で包まれたような支笏湖、おまけに風がやたらめっぽう強い。泊まりの仕事の疲れだろうか、僕の感覚も今日のうす曇りの天気のように薄い1枚の膜で被われたように鈍く感じられた。
ヒクヒクと利く僕の鼻も、今日ばかりは安物のラジオのアンテナのように感度が鈍い。NHKですらチューニング出来ないぐらいだ。でも、さっき湖畔に降りがけに見たシダの鮮やかで妖艶なグリーンには、ちょっとドキッとさせたれた。
久しぶりにシングル・ハンドのロッドを手にしたけれど、不思議なほどに湖面に鱒の気配は感じられない。相変わらず、気まぐれに吹く強い風がグルグルと僕の周りを回っていて、時間の感覚もそれにつられて鈍くなっていた。
ここは、River Airport。文字通り空港のそばを流れるstreamである。風の中を舞う雲雀の囀りを耳にしながら、低番手のスペイ・ロッドを振った。それにしても長閑なのである。こういう流れも嫌いではない。小さな鮭稚魚が何匹か岸際を泳いでいた。一度だけ大きな鱒の立てる波紋を見た。一瞬、僕の中のアンテナの感度が良くなりそうになったけれど、すぐにノイズに掻き消されてしまった。風が、また一段と強く吹き出した。