僕はDerek Brownという男のことをよく知らない。ただ唯一知っていることは、彼がスコットランドのスペイ・キャスターだということと、その彼がウィンストンのスペイロッドを過去に監修した事があるということ、そしてカタログで見た"Derek Brown Favorite"と彼の名前が冠されたウィンストン・グリーンのロッドがメチャメチャ美しかったというぐらいだろうか。不思議な事だけれど、なぜかDerek Brownという名前が僕の記憶の片隅で、まるでボールペンで書いた文字が消しゴムでいくら消しても消えないように、薄っすらと浮かび上がり続けていたのだ。
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いつの間にか、そのロッドはウィンストンのカタログから跡形もなく消え去っていた。そう、僕がスペイキャストに興味を持ち始めて、何とか手に入れたいと思った時にはである。軽さを追求するといったロッドの進化の流れにそぐわなかったのだろうか。それともアクションの問題なのだろうか。その理由は皆目見当がつかない。不思議なもので、そうなるとますます時代の流れに取り残された美しいロッドに興味が湧いてきた。
一期一会という言葉が僕の伝えたい事にピッタリ合う言葉かどうかはわからない。でも、その言葉しか僕の頭の中には思い浮かばなかった。友人とのメールのやり取りの中から偶然にもオークションで見かけてしまった未使用のDerek Brown Favorite、15feet、#8/9。迷いに迷った挙句、とうとう手に入れてしまった。次はいつ出会えるか分からないという不安が、もしかしたら僕を突き動かしてしまったのかもしれない。
これが僕の2本目のDerek Brownの話。つまり、たわいない話なのである。
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