日が傾いて夕暮れが迫った頃、向こうの空に真ん丸の月が浮かんでいた。
ここは美笛川河口、辺りが暗くなり始めると、急に気温が下がり始めた。そろそろ帰り支度を始めよう。
仕事を終えた午後、これから支笏湖に向かおうとしていると一本の電話。友人からだ。昨日の夜釣りでブラウンが釣れたという。月が出ていたにもかかわらず、かなり活性が高かったそうだ。僕の仕事が火曜の午後、休みだと知っているので、連絡をくれたようだ。彼から一通りの情報を聞いた後、同じポイントに向かうことにした。大きなブラウンが同じ場所に留まっている訳はないよなぁなどと考えながらも、もしかしたらという期待は僕には正直、少しはあった。
でも、そんなに思ったように事が運ぶということはなく、僕の僅かな期待もフライと一緒に深くて暗い湖底へと沈んでいった。まさしく沈黙の湖。いや、静寂のままの湖だ。
場所を変えよう。向かった先は美笛川河口。でも、国道から美笛に抜ける道に入ろうとするとゲートが閉まっていた。もうそんな季節になったんだ。来年の春までこのゲートが開くことはないんだろうと思うと少しだけ物悲しい気分になった。
車を歩道脇に停めて湖岸沿いを美笛方向に向かって歩いた。
早春の時期から始まり、エゾハルゼミの時期、モンカゲロウの時期と過ごして盛夏の間の一休み。海のサーモンの遡上が終わるとともにまた支笏湖に通い始めたけれど、カメムシの時期が終わりを告げて、今ではもっぱら沈める釣り。毎回違った表情を見せてくれる支笏湖と周りの景色。相変わらず支笏湖の鱒、いや、支笏湖の女神はそっぽを向いたままである。あぁ、いったい何度ここに足を運んだだろうか。
湖岸の砂を踏みしめる音を聞きながら、今年も残り僅か。あと何回ここに来れるだろうかと僕は呟くしかなかった。
今日のBGM:COCTEAU TWINS/TREASURE