川から朝靄が立ち込める中、軟らかい川底に足を滑らさないように慎重に歩いた。一歩、また一歩。きっと向こうの流芯近くには、大きな鱒がゆったりと泳いでいるに違いないと信じて。
僕にとっては初めて訪れる初冬の十勝川下流。アメマスが行き来するというその川は、僕の想像以上の川幅が広がっていた。一見何の変化もないようにゆったりと川は流れている。そんな川の中に立ち込んでいると、時間が流れていく感覚が少しだけ麻痺していくのが感じられた。
寒さに震えながら、15feet10番のダブルハンドにtype3のヘッドを巻き込んだリールをセットする。特に意味はないけれど、なぜかこの川にはダブルハンドが似合うような気がした。それも思いっきりパワー・ウエットのスタイルで。
相変わらず、僕の#10フックに巻いた細身のオリーブ色のゾンカーを咥えていくのは、この川の住人の丸々と太ったウグイ達。そんな彼らの束の間のトルクフルなファイトに翻弄されながらも、僕は実のところ楽しかった。このまま今日の釣りが終わりを迎えたとしても、僕は十分満足出来たんだろうけれども、決して大きくはない十勝川のアメマスがほんの少しだけ僕に挨拶してくれた。牡丹雪のような白い斑点。優しそうな表情がとても印象深かった。
夕暮れ間近、ふと空を見ると、十勝の空に決して真ん丸ではないけれど綺麗な月がポッカリと浮かんでいた。そんな月を眺めながら、アメマスの白い大きな斑点が僕には重なって見えた。