まるで満月のような綺麗な弧を描いた友人の8番ロッドから放たれる、ミシィ、ミシィという嫌な音が、間欠的に鳴り響くリールの逆回転音に混じって、離れた所にいる僕の耳にも確かに聞こえてくる。初めてsalmonの暴力的なファイトを体験する友人の驚愕と感嘆と苦悶とが入り混じった何とも言えない表情が印象的だった。きっと僕も、遡上してきたsalmonが初めて僕の真赤なフライをテイクした時、同じ様な表情をしていたに違いない。
それが何年前だったのか、はっきりと思い出せない。でも、僕が初めて川でsalmonの強烈なファイトを味わったのは、浦河町にある元浦川だった。初めてライセンスを取得して、競走馬の牧場の間をぬって流れる川の辺に立ったのは9月の初め。台風による増水で釣獲調査の中止が解けた週末だった。川はまだ台風の余韻で増水していて、その上、乳白色に濁っていた。
ファースト・ラン。きっと増水した川の流れに逆らって、多くのsalmonが遡上していたに違いなかった。この手の釣りの経験のない僕は、今なら迷わずシンクティップのラインを選ぶけれど、取り敢えずtype4のヘッドを選び、16lbのティペットを1m程つないでウェイトのたっぷり巻きこんだ真赤なフライを結んだ。
おそらく普段の水位なら、瀬だと思われる流れを釣り下る。グゥ、グゥン。10m程釣り下った所で、微かな前アタリの後、突然押さえ込むような重量感のあるテイク。salmonは、増水したトルクのある流れに乗って、猛烈な勢いで下流に下った。その強引なパワーは明らかに僕の想像をはるかに超えるものだった。
きっと、この釣りには好き嫌いがあると思う。遡上魚の釣り。今でこそ忠類川のように、リリース区間が設けられている河川もあるけれど、ほとんどがリリースが許されていない釣りだから。
でも、僕はまた9月の声を聞くと、この釣りに出掛けてしまう。遡上するsalmonに対する畏敬の念と感謝の気持ちを、忘れずに、胸に秘めて。
今日のBGM:David Byrne/Forestry